「千葉県在宅がん患者緩和ケア支援ネットワーク指針」
意見書
 
NPO法人千葉・在宅ケア市民ネットワーク ピュア
(NPOピュア)代表 藤田敦子
 
 末期がん患者を看取った家族の立場で、感じたことを述べさせていただきます。 在宅で最期を迎えるために必要なことは、下記が考えられます。
 
1.どこの場所でも同じ緩和ケアが受けられる保障
2.患者・家族へ自助努力を強いない相談窓口や
コーディネーターの設置
3.24時間の緩和ケア保障
4.最期の場所を自由に選ぶことができる「自律」保障
5.既存システム外のサービスの提供
6 家族(遺族)への支援体制の確立
7.市民、関係機関への在宅緩和ケアの啓蒙
8.在宅の新たな形の調査・研究
 
 

1.どこの場所でも同じ緩和ケアが受けられる保障

 疼痛緩和技術やモルヒネ、尊厳死に対する考え方が統一され、 県がんセンター以外の医療機関においても同一の緩和ケアが受けられることが絶対条件です。 そのためには、研修以外にマニュアルやガイドラインを県が作成することが大切です。 そして、がん患者一人ひとりの疼痛緩和ケアは、個別性があり、 研修だけでなくいつでも求めに応じ適切なケアを施すことが出来るように、 県がんセンターに技術指導窓口の設置(FAXやメールの利用)をお願いしたいと思います。 また、医療サイドだけでなく患者自身が医療者の痛みのケア等に対し不満や疑問を投げかけられる窓口があり、 どこにおいても適切なケアが受けられることを望みます。

2.患者・家族へ自助努力を強いない相談窓口や
コーディネーターの設置

 介護保険においての介護保険課のように、在宅緩和ケアを扱う市町村単位での窓口の設置を希望します。がん患者のケアは他の在宅ケア療養者と違い、とてもすばやい対応とチームケアが必要となります。また、介護保険適応前の発症も多く、障害者窓口とは異なります。前医療機関での説明不足の場合もあり、在宅緩和ケアに対する理解や情報提供、 他機関へのコーディネーター、困難事例の対処、事例検討会の開催などを地域単位で行なうことが大切です。 介護者のいない患者の在宅緩和ケアを可能にするためには、従来の社会資源以外に法律家、 配食や移送サービスも必要となります。個々のケースにおいて対応できる幅広い知識や調整機能をもった相談窓口やコーディネーターの設置が望まれます。  患者・家族に安心感を与えるシステムがあってこそ在宅緩和ケアが可能になります。

3.24時間の緩和ケア保障

 地域格差があり、在宅医療を行なう医療機関が限られています。 かかりつけ医に在宅緩和ケアに参入してもらうためにも、24時間医療をかかりつけ医のみに任せるのでなく、 システムとしてささえる機能の確立が必要です。 訪問看護の24時間ケアを推進させるための施策が必要であり、医師会単位で患者情報の共有化を図るよう検討してもらいたいと願っています。 また、県がんセンターは、病状急変の後方支援ベットを担うとともに、一般病院において緩和ケアがなされるように一般病院や医師、訪問看護との連携が必要であり、 緩和ケアの理解を深めるため情報をたえず発信することが大切です。   モルヒネが麻薬扱いのため、医療機関において常備必要な量の確保がなされていない場合があります。 24時間の訪問薬局または管理を確保していただきたいと思います。痛みの緩和が24時間行われることが最も大切なことです。

4.最期の場所を自由に選ぶことができる「自律」保障

 インフォームドコンセント(説明と同意)は、がん告知のみに行なわれるものでなく最期まで続けられることを望みます。 医療機関において、これ以上の治療が望めないと判断された時は、今後のケアについて充分な説明が必要となります。 現医療機関または他医療機関での治療継続、ホスピス(緩和ケア病棟)への転院、在宅緩和ケアの導入です。 在宅緩和ケアを導入する場合は、起こり得る病状の変化やそれに対する対処の仕方の説明を患者・家族にすることがとても大切です。できれば治療医療機関が後方ベットとして位置することが望ましいと思います。 継続性があってこそ、在宅緩和ケアは可能となります。   初めての体験のため、病状の変化により決定が変わることがあります。 どのように生きどのように死ぬか、患者の生き方が問われてきます。 現在、確固とした死生観がない患者・家族が多く、突発的な出来事によりケアの方向が変わる場合があります。 ケア導入時からの継続的なインフォームドコンセントが多くの問題を解決する糸口となるでしょう。 患者の望むケアを継続的に提供することが大切であると考えます。

5.既存システム外のサービスの提供<

 急激な病状悪化に伴うサービスの提供は、既存の提供方法では間に合わない場合があります。 障害者福祉サービスや介護保険法サービスなど、認定とサービス提供の迅速化を図るべきです。  また医療と福祉サービスの狭間に陥り易い壮年期に対し、いろいろなサポートが受けられるよう支援システムを整える必要があります。

6.家族(遺族)への支援体制の確立

 患者との会話や信頼が充分にあり、思い残すことなく介護をすることが出来たとき、遺族は死後の喪失感より立ち直ることができます。 患者本人だけでなく、介護者へのケアはとても大切です。 介護の代わり、疲れの緩和や家族を失う心の痛みに対し、ケアが継続的になされるために専門家や研修を受けたボランティア、市民団体の存在が必要となります。  悲嘆ケアにおいては配偶者のみならず、親を亡くした子供、兄弟、子を亡くした親等さまざまなケースが考えられ、個別性をもってケアすることが望ましいです。

7.市民、関係機関への在宅緩和ケアの啓蒙

 千葉県においては医療機関、NPO等市民団体、患者会において講演会や相談活動等自主的に開催されていますが、 在宅緩和ケアへの啓蒙を一層深める為に、在宅での看取り教育が県レベルで行なわれることが望ましいです。 フォーラムの開催を始め、多くの場や機会を使って緩和ケアの理念を広めることが必要です。在宅緩和ケアが継続できない理由として、周囲の何気ない一言により患者や家族が傷つき、入院を決断する場合があります。 一般市民やケアに携わる関係機関に対して在宅での死や緩和ケアの啓蒙は必要です。 学校教育や生涯学習の一環として、死の看取り教育がなされていくことが大切と思います。 死の看取り教育により、家族の死を前にしてうろたえることなく在宅死を迎えるための適格な判断がなされます。 また、医学教育や看護教育においても、在宅緩和ケアのプログラムを取り入れ、在宅緩和ケアを普遍化する必要があります。   インターンシップの取り入れにより、大学生がNPOにおいて自らの専攻やキャリアに関連した体験を学ぶことは、大学では得られない知識や経験を深めることになり、今後推進させることが必要です。 地域の中でささえるためには、その地域に緩和ケアを理解したボランティアが必要となります。一人暮らしであっても在宅緩和ケアを行なえるネットワークこそが望まれていることでしょう。

8.在宅の新たな形の調査・研究

 少子高齢化というわが国の人口構成のなか、老々介護、ひとり暮らしの増加があり、自宅のみを在宅ととらえるのでなく、新しい在宅のあり方を調査・研究していくことが必要です。 ケアハウス、グループホーム等に暮らし、さまざまなサービスを受け、地域のなかで自分らしく生きることをささえるシステムの構築が望まれます。

在宅緩和ケアとは、いつもと同じ普通の生活をかなえることと思います。 普通の暮らしの中には、仕事があり、遊びがあり、食があり、家族友人がいます。 最期の瞬間まで自分らしく生きることを支援するネットワークの確立を願っています。 今回策定されたネットワークが指針として示されるだけでなく、 千葉県緩和ケアネットワークとして設立され、 継続的な在宅緩和ケアの啓蒙につながることを期待します。 指針は、今回の作成で終わりとせず、随時見直しを図っていく必要があります。

以上の観点から、指針への修正案を提言いたします(省略)。

2002年10月26日(2003年3月13日加筆)

*謝辞
 上記、意見書をまとめるにあたり、日本ホスピス・在宅ケア研究会市民ネットワークのみなさまにご助言をいただきました。 また、千葉大学法経学部広井良典教授にご教示いただきました。厚く御礼を申し上げます。

この意見書は、ホスピスケアと在宅ケア(Hospice and Home Care)2003年Vol.10 No.3 ISSN 1341-8688 日本ホスピス・在宅ケア研究会に一部収められています。また、全文を「家に帰ろう!在宅ホスピスケアガイド―千葉市版」に収めてあります。